
胸部腫瘍臨床研究機構(TORG)理事長
北里大学医学部 呼吸器内科学
猶木 克彦
胸部腫瘍臨床研究機構(Thoracic Oncology Research Group: TORG(トルグ))は2004年に設立されたNPO法人で、胸部悪性腫瘍(主に肺がん)に対する多施設共同臨床試験を行うことで、より良い治療の開発を目指す医師の任意団体です。設立以来、抗がん剤や放射線治療を用いた新しい内科的治療の開発に積極的に取り組んでおり、これまで約40本の臨床試験を完遂し、国内外の学会と英文誌に公表して参りました。詳細は研究業績の項をご参照下さい。
旧理事会の推薦および2025年6月の総会での新理事会承認を受けて、初代の渡邉古志郎先生、第二代目の岡本浩明先生に続く第三代目理事長として7月1日より私、猶木克彦が就任しました。旧理事は私を含め12人が再任し、新たに3人の理事に加わって頂きました。いずれの役員も日本の肺がん診療を牽引しているオピニオンリーダーの先生方ばかりです。TORGの新理事長として私をご推挙頂いたことは大変光栄でございますが、より良いがん治療を国民に提供することが本NPOの設立趣旨でありますので、その重責を全うできるよう会員の先生方と一致協力して、本機構を運営していく所存でございます。どうかよろしくお願い申し上げます。
従来TORGは比較的小規模な臨床試験を実施するグループでしたが、症例数の多い比較試験の実施も増えてきており、最近ではEGFR変異(uncommon mutation)陽性肺癌に対する分子標的薬と化学療法との比較試験の結果がJournal of Clinical Oncologyに掲載され、肺癌診療ガイドライン2024にも収載されるに至りました。
新しい抗がん剤が承認されると、用法・用量は添付文書に従うことになりますが、他の抗がん剤との併用もしくは放射線治療や手術との併用療法については、至適な用法・用量は定まっていないため、市販後の医師主導臨床試験の積み重ねにより新たな治療法が確立されます。しかし肺がんに対する標準治療(つまり、「最適な治療」)を単独施設で確立することは困難であり、診療レベルが一定水準以上の施設が共同して臨床試験を行い、より良い治療の確立を図る必要があります。TORGは肺がん診療に優れた施設が一致協力し、多施設で共同試験を行いながら、より良い治療の開発に努めております。
海外で大規模な臨床試験の結果が公表されると、あたかも日本でも決着がついたかのように議論されることがありますが、内容は慎重に吟味される必要があります。欧米と日本では生活習慣や医療の仕組みが大きく異なること、薬理遺伝学的な人種差が存在すること、日本と海外で承認用量が異なる場合も多いこと、などから、日本や東アジアの患者さんが参加していない臨床試験結果を無条件で鵜呑みにはできません。最近の新薬承認を目的としたグローバル治験では一定数の日本人患者さんを含んでいますが、それだけでは十分な証拠(エビデンス)とは考えられません。わが国でより良いがん治療を確立するためにTORGのような医師主導臨床試験グループは、新薬承認後も継続的に最適治療の開発を実施する責務を担っています。
TORGは上述のように臨床試験の立案と遂行を積極的に行っており、臨床試験や学会活動を数多くこなしている病院・施設は日常臨床においても高い診療レベルを示すことは医学全般においてよく知られた事実です。肺がん患者さんやその御家族の方が、このTORGのホームページをご覧になられましたら、是非ともこのTORGに参加している医療機関に受診し、肺がん診療に精通しているTORGの医師に御相談されることをお勧めします。またTORGは一般市民、患者さんを対象として、肺がん診療を良く理解し正しい治療を受けていただけるように市民公開講座を定期的に開催しております。当ホームページにご案内いたしますので、お誘い合わせの上、多くの方にご参集いただきたいと思います。
渡邉古志郎初代理事長、岡本浩明前理事長から引き継ぎましたTORGをさらに発展させ、より良い治療の開発に努め、次世代につなげることを目指して参ります。臨床試験の立案・実施においては、次世代の優秀な若手医師の意見を取り入れ、若手医師とともに学んでいくことが重要であると考えております。今後ともTORGへのご理解とご支援、ご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
2025年7月
第三代目TORG理事長
猶木克彦
代理事長 渡邉古志郎
任期:2004年9月 〜 2017年6月
第二代目理事長 岡本浩明
任期:2017年7月 〜 2025年6月